「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第104話

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帝国との会見編
<誤魔化せたかな?>



 驚愕の皇帝陛下ペコリ事件の衝撃も去り、私たちはメイドさんの案内で用意してくれた自分の席に腰を下ろす。

 この部屋の造りなんだけど、横長の長方形で左手奥の壁にバハルス帝国の国旗に描かれているのと同じ紋章を模ったレリーフが飾られていて、私たちが入ってきた扉はその反対側、部屋の右端にある。
 因みに案内された長テーブルはレリーフが飾られた壁の方に寄せて設置されていて、逆側の扉の前にはホストがゲストを迎え入れる為にと大きなスペースが設けられている。
 私たちが先程まで立って話をしていたのはそのスペースって訳。
 そして入って右側の壁にも扉あって、確信は持てないけどこの扉がギャリソン達が居る隣の控えの間に繋がっているのだと思うのよ、方向も同じだしね。

 さて、紋章付きの部屋に通されたのだから私はてっきり皇帝エル=ニクス陛下はそのレリーフを背にして座るんだろうなぁなんて思っていたんだ。
 自国の紋章だし、肯定と言う立場上、その紋章を背にして他国の使者と謁見するのは当たり前の事だと思うしね。
 ところが陛下はその場所に座る事は無かったの。

 お誕生日席に座ると来賓である私たちと話し辛いからなのか、陛下は入ってきた扉の反対側である窓際の向かって一番左側の席に座り、その横にロクシーさん、そして陛下の向かいに私が通され、その隣にシャイナが座る事になった。

 「それではアルフィン殿、お招きしたのは私ですから、最初の話題は此方から。アルフィン殿はなぜこの地へと参られたのですかな? 私がロクシーから聞いた話ではこの地を訪れてから特に何をする訳でなく過ごしていると聞いているのですが」

 「私がこの地を訪れた理由ですか?」

 うわぁ、最初から嫌な質問だなぁ。
 だって私たちの城、イングウェンザー城が今の場所に転移して来たのは私の意思じゃないから特に理由らしい理由は無いもの。
 でもまぁ私たちの存在を知れば当然気になる内容だと思うし、それだけにいずれ誰かに聞かれるであろう事を想定して答えは考えてあるんだけどね。

 「幾つかあるのですが、一番の理由は見聞を広める為でしょうか」

 「見聞を広める為・・・ですか?」

 鸚鵡返しで疑問を投げかけてきた皇帝陛下に、私は微笑みながら頷く。

 「はい。これまでの私の行動がお耳に入っていると言うでのしたら、その至らなさから既にお気付きかもしれませんが、私はあまり他国を訪れた事がありません。国許では支配者となるための教育と巫女となる為の修行、魔法の勉強などをして過ごしてきたので都市の外へ出る事が殆どありませんでした。ですが修行の成果が実り、巫女の資格を得たおかげでこのように外に出る事ができるようになったので外の世界を知るために今の場所に城を築き、滞在しているのです」

 「アルフィンはこのように話していますが、本来なら巫女と言うのはこの若さでなれるものではないので修行中は国から出られないなどと言う事はありません。しかし我が都市国家イングウェンザーで随一の癒しの力を持つ彼女は幼い頃からすでに先代に匹敵する力を持っていたので、その力を一日も早く開花させる事にこだわった先代が、修行が終わるまでは外交上どうしても必要な場合を除いて他国を訪れる事を禁じたのです」

 おっ偉い! シャイナ、よく覚えていたわね。
 このシャイナの台詞、本来なら常に私と行動を共にしているギャリソンが説明するはずの物だったんだけど、もし誰かに尋ねられた時にギャリソンがその場に居なかったら困るからと自キャラたちとメルヴァ、セルニアとヨウコたちにもこの理由の補足事項を覚えてもらっていたのよ。

 でもさぁ、メルヴァやヨウコたち、それにあやめやまるんなら多分大丈夫だと思っていたけど、セルニアやシャイナたちに関しては本当に覚えていられるかちょっと心配だったのよね。
 まぁセルニアは抜けている所はあるけどマジックキャスターだから記憶力と言う部分ではある程度信用できると言えばできるからいいんだけど、一番の問題はシャイナだろうなぁと私は考えていたの。
 でも、そのシャイナが立派に説明できたのだから、私としては大満足だ。

 うん、例え補足し忘れている部分があったとしてもね。
 と言う訳で補足の補足。

 「とは言っても、幼い頃は私も他国を訪れていたのですよ。先代が私の出国を嫌うようになったのは私が巫女の修行だけではなく、その他にも色々と時間の取られる勉強をしていたためなのです。しかし成長し、色々な事に興味を持ち出した頃から今までのように度々他国に訪れていては修行の時間が減ってしまうからと禁止されてしまったのです」

 「なるほど、そのような理由で。しかしそのお話を聞いて色々と納得がいきました。我が国にも数多くの神官はおりますが、アルフィン殿のように類まれなる癒しの力を持ちながら、他の系統の技術まで修めている者は居りません。しかしそれはアルフィン殿が他の時間を犠牲にして得られた力なのですね」

 皇帝陛下がなにやら納得したような顔でそんな事を言ってきた。
 はて? 話的には矛盾はないような気がするけど、なぜか違和感。

 「それ程の事ではありませんよ。ただ詰め込んだだけで、さしたる経験も無いのですから私の実力などたかが知れていますわ」

 「いえいえ、アルフィン様は癒しの技のほかに建物を作る事ができるほどのクリエイト魔法を修めていると私は聞き及んでおります。その上、武も我が国の四騎士をも上回ると言うのですからわたくし、頭が下がりますわ」

 っ!?

 ホホホと笑うロクシーさんを前に、私は危うく大声を出しそうなくらい驚いた。
 だって私は、と言うかアルフィンはこの世界に転移してから戦った事が一度もないんだもの。
 なのにどうして私がそれ程強いと見抜かれたんだろう?

 いや、ブラフかな?

 「どこでそのようなお話を聞いたのかは解りませんが、横にいるシャイナはともかく、私はそれ程の力は持っていませんよ」

 そう思った私はロクシーさんに、にっこりと微笑みかけてこの話を否定する。
 ところが、どうやらこれに関してはある程度確信を持っていたみたいなのよ。

 「それこそご謙遜を。この話はロックブルズが私に語ってくれたことなのです。アルフィン様に心酔している”あの”彼女がです。ロックブルズは、いえ我が国の軍の中枢を担う帝国四騎士たちは武に関して大きく実力を見誤る事はありませんわ。それに陛下」

 「うむ、確かにバジウッドも同じ様な評価をしていたからな。アルフィン殿、私もロクシーも帝国四騎士たちを信頼しているのだ。その彼らの言葉である以上、我らにとってこの話はまこと偽りのないものと判断する。いくら否定した所で意味はないぞ?」

 そう言って陛下はニヤリと笑った。
 うう、否定しても無駄かぁ。
 でも私の本当の強さが伝わっているようにも思えないのよね。
 だってもしそうなら皇帝陛下はともかく、ロクシーさんがこんなに落ち着いて私の前に座っていられるとは思えないもの。

 シャイナならもしかして一人でバハルス帝国全軍と戦っても勝ってしまうんじゃない? なんて思うくらいかけ離れた実力を持っているのに、戦場に立つ機会があるとは思えないロクシーさんが如何に此方に敵意がないと言っても、そんな化け物じみた相手を前にして護衛もつけずにこれほど平然とした顔でこの場に座っていられるはずがないもの。

 確かに強いかもしれないけど、扉横にはメイドさんもいるし隣に護衛の4騎士がいる。
 このような場にいるメイドさんだから多少の心得はあるだろうし、例えもしもの事があったとしてもメイドさんが楯になっている間に騎士さんたちが飛び込んできて逃がしてくれるだろうと思える程度しか力量が離れていないと考えているんじゃないかな?

 と言う訳で、ここは素直に認めることにする。
 ここで尚もそんな実力は無いと言い続けたら、そこまでして隠さなければならないほどなのかと逆に勘ぐられる可能性もあるからね。

 「なるほど、そのような見立てなのですか。ならばそうなのかもしれません。ただ私自身、自分がどれ程強いのか解らないのですよ。横にいるシャイナと立ち合った場合、10回やれば10回とも負けてしまうほど実力が離れていますし、何より成長してから殆ど国を出た事がない私は当然他の国の方と試合をする機会どころか手合わせを見る機会さえも無かったのですから、他の国の方がどれほどの実力を持つのか解らないのです」

 クスクス。

 そんな私のいい訳を聞いて、隣にいたシャイナが笑い出した。

 「失礼。アルフィンは巫女の修行の為、兵層(モンク)の修行もしていましたから無手や棍でならばそこそこ戦えるとは思います。ですが、戦場で主流となる剣や楯は持った事もないですから帝国四騎士の方々の見立てほどの実力はないと私は思いますよ。身のこなしそのものは確かにしっかりとしていますが、それは神事を執り行う為に鍛えられたのもので戦場向けのものではありませんし」

 そう言うとシャイナは私の方に向き直ってにっこりと笑いながら、

 「アルフィン、少しだけ神楽を舞ってみては? それを見てもらえば少しは納得してもらえるんじゃないかな?」

 良いことを思いついたわ! とでも言いたげに、こんな事を言い出した。

 えっ? 神楽? 神楽ってあの神楽よね?

 シャイナが言っている神楽と言うのは、巫女魔法の一つの事だと思う。
 本来の意味での神楽は、神楽鈴と言う道具を持って神様に奉納する踊りを舞う行事なんだけど、ゲームにおいてはコマンドを入力するとキャラクターが舞い始めて周りの弱いアンデッドを消滅させ、なおかつ穢れた地を浄化する事により一定時間再ポップしなくする効果がある魔法だった。
 そしてジョブが巫女である私は当然神楽を舞えるし、その効果を上げるアイテムである神楽鈴も持っている。

 でもそうか、舞いというのは体感がぶれると美しくないから、それを見せれば私が強いと勘違いした理由付けにもなると考えたのね。

 「そうね。皇帝陛下、ロクシー様、お目汚しになりますが少しだけお付き合いください。シャイナがそう言うのならばきっと神楽を見てもらえば納得してもらえると思いますから」

 そう言うと私は立ち上がり、入り口のドア付近の空いたスペースに移動する。

 シャランっ。

 そしてアイテムボックスから神楽鈴を取り出した。

 「ほう」

 皇帝陛下がなにやら感心したような顔をしているけど、特に気にすることなく私は準備に入った。

 神楽は舞いではあるけど魔法でもあるから、舞えばゲームの時同様エフェクトも出るし効果も現れてしまうけど、ここには対象となるアンデッドなんて当然いない。
 だから強力な魔法であってもその効果がどれくらいの物なのかなんて解らないだろうからと見栄えのしない低レベル魔法である”素”の神楽ではなく、詠唱代わりの舞いが比較的長い中レベル帯で使われる”竜神神楽”と言う神楽を発動する。

 シャラン、シャラン、シャラン。

 すると私の周りに光の粒のエフェクトがかかり、私の舞いの動きに合わせてそれが舞い散るように広がって周りを浄化して行った。
 因みにこのエフェクトに触れたアンデッドは抵抗に失敗すると灰になって崩れ去り、成功したとしても一定のダメージを受けた上に浄化範囲にとどまり続ける限りは神聖魔法の継続ダメージを負う事になる。

 「舞っているアルフィンに変わって説明しますね。この神楽は穢れた地を浄化する儀式魔法で、あの周りに広がる光の粒はアルフィンの魔力によって生み出され、神楽の舞の力によりそれが拡散して広範囲を浄化します。本来は我が国の神事で奉納される舞いなのですが私たちの国の近くでは強力なアンデッドの被害により土地が穢れることがあり、その穢れを祓うためにも使われる事があります」

 そんなシャイナの説明を皇帝陛下は真剣な顔で聞いていて、そして私が舞い終えた途端、カーテシーで挨拶をするのを待つ時間さえ惜しいとばかりに私に問い掛けてきた。

 「アンデッドの穢れを払うか。それはアンデッドそのものを払う事もできるのか?」

 「アンデッドそのものですか?」

 発言の意図がつかめず、とりあえず少し考えてから答えを返す。

 「ええ、この神楽にはアンデッドそのものを送還したりダメージを与えたりする効果はあります。ただあくまで土地の穢れを浄化する儀式魔法なので自分より強いアンデッドにはほぼ効果がないですし、そこまで強くないアンデッドでも浄化範囲外に出られてしまってはまったくと言って良いほど意味がないので、一定以上の知性があるアンデッドにも通用しない魔法ではあります」

 そう、この魔法はボス戦やギルド本拠地攻略戦などで呼び出されたり再ポップする弱いアンデッド対策が主目的の魔法であり、PVPやアンデッドのボス本体相手には殆ど意味を成さない魔法なのよ。
 ユグドラシルではこの様な系統モンスターごとに色々な一定期間再ポップ禁止魔法があって、これらは安全地帯が少ないダンジョンやモンスター配置が任意でできるためにそもそも安全地帯など存在しないギルド本拠地戦で攻略側が休む為の場所を確保するのが本来の使用目的の結界魔法であり、アンデッドへのダメージはあくまでおまけ的な位置づけなのだ。

 「弱いアンデッドや知性の低いアンデッドにしか効果はないのか・・・残念だ」

 なにやら深刻そうな顔をしているけど、もしかして強いアンデッドが沸く場所があって困ってるのかも?
 でもなぁ、範囲拡大はできるけどそれにも限度があるし、極端に広い場所を浄化して欲しいと言われても困るから、向こうが何か言い出さない限りは此方から売り込むのはやめておいたほうが良いだろう。

 この都市の墓地程度の広さなら中心で舞って、その後その効果が届かなかった範囲をまわりながらやれば数時間でできるだろうけど、それ以上の広さの場所なら正直面倒くさいもんね。

 「もし貴国の手に余るほど強いアンデッドが沸く場所があるのであれば、その場所は放棄した方が良いと思いますよ。アルフィンは確かに穢れを祓う事はできますが、あくまで癒し手です。それに彼女は我らの頂点に立つ立場ですから、戦いになるような場にはお貸しする訳には参りませんからね」

 「うむ、解っている。アルフィン殿をそのような危険な場所に赴かせるなど私も考えてはいないし、何より自国ではどうしようもないからと他国の女王であるアルフィン殿の力に縋ってしまっては我が国も立つ瀬がないからな」

 シャイナの言葉を受けて、皇帝陛下は懸案の場に私を連れて行くことはないと宣言してくれたのでホッと一安心。
 この世界のアンデッドならかなり強くても何とかなるとは思うけど、それがもし前に聞いた口だけの賢者のようなプレイヤーだったら困るし、そうでなかったとしてもこの国が兵を動かしても倒すことが出来ないような個体を私が簡単に払ったりしたら一大事だものね。

 と言う訳で、今の心のままにホッとした顔で皇帝エル=ニクス陛下に微笑を向ける。

 「その言葉を聞いて安心しました。私はシャイナと違って魔物と対峙した経験がありませんからスケルトンやゾンビのような弱いアンデッドならともかく、強力なアンデッドの前に立っても平常時の今のように心を穏やかに保って神楽を舞える自信はございませんから」

 当然嘘なんだけど、そう言っておくのが無難だろう。
 私たちのように装備を固めさえすれば、この世界の大抵の相手ならばダメージを追うことさえないであろうなんていうのはかなり特殊なのだから。

 道場で強い人が試合で強いとは限らないと言う話はよく聞くし、その試合でいくら優勝するほどの実力があったとしても初めての戦場ではその実力を発揮できるような人はまず居ない。
 ゲームの時同様、死んだり怪我を負ったりする心配がない私たちだからこそ初めての戦場でも緊張することなく実力が発揮できるのだから、そう言っておいた方が相手も受け入れやすいだろうとも思うしね。

 「解っている。戦場に立つ為に鍛えている兵でさえ初陣で力を発揮できず終わる者がほとんどだ。だからこそ、そのような新兵は戦列の最後尾に配置するのだが、それでさえ緊張し、怯え、体調を崩す者も多いと聞く。そのような場にアルフィン殿を立たせるなどけしてないから安心してくれ」

 「わたくしからもお願いしますわよ。アルフィン様をそのような危険な場所にお連れして国に帰られてしまったら一大事ですもの」

 皇帝陛下の言葉に、ロクシーさんがお願いと言う形で念を押してくれた。

 「よかったですわ。もしそのような場に連れて行かれては私、きっと震える事しかできないでしょうから」

 「そうだね。その時はきっと私も護衛として一緒にいくことになると思うけど、身体的に守る事はできても心までは守る事はできないから、その時はずっと肩を抱いて慰めるような事態に陥りかねないからなぁ。できればごめん蒙りたいね」

 なんか酷い事を言われてる気がするけど、これもシャイナなりの援護射撃なんだろう。

 「そんな事はありません! もしそのような場に立ったとしても、私だってシャイナにずっと肩を抱いてもらわなくても一人で耐えられます」

 だからそう言ってちょっとだけ拗ねてみせる。
 そうする事で、シャイナの心遣いが少しでも効果的に働くように。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 本編中に出てくる神楽ですが、D&Dに同じ様な土地浄化魔法があります。(因みにアンデッド相手のダメージはありません)
 そして逆に土地を穢れさせてアンデッドが湧くようにする魔法もあるんですよ。
 その魔法の効果は死の螺旋に酷似しているので、あれはこの魔法を使ったものなんじゃないかなぁと私は考えています。
 ただ、湧いたアンデッドをある一定の方向へ誘導するのは他の魔法だろうから、その魔法の効果だけで行われているわけではないでしょうけどね。


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